12月20日 堀内誠一さん|デザイナーにしてアーティスト、お父さんにして旅人
月に1回、その月にお誕生日を迎える作家・画家とその作品をご紹介する「絵本作家の誕生日」。12月20日は、子どもたちに向けてお話の本質を描き続けた堀内誠一さん(1932年-1987年)のお誕生日です。
デザイナーにしてアーティスト、お父さんにして旅人
堀内誠一さん(1932年12月20日生まれ)
『くろうまブランキー』、『ぐるんぱのようちえん』、『こすずめのぼうけん』『くるまはいくつ』、『たろうのおでかけ』、『雪わたり』、『ロボット・カミイ』、『ほね』……。これらすべての絵本はひとりの画家が描いたものだと聞いたら、驚く人も多いのではないでしょうか? しかも、同じ人が雑誌「anan」のロゴを作って、創刊号から編集にたずさわっていたグラフィックデザイナーだったなんて!
堀内誠一さんは、1932年12月20日に東京・向島で生まれました。図案家だった父の仕事場で、幼い頃から外国の雑誌や画材、多くの絵本に触れて育ちますが、9歳のときに日本は開戦。12歳のときに疎開先の能登で敗戦を体験します。
家計を助けるため働きだした堀内さんは、14歳で新宿の百貨店伊勢丹に勤めはじめます。戦後の食糧難の時代、当時の百貨店にはお米の配給所があって、最初の仕事は衣料切符の整理だったそうです。その後、ショーウィンドーのディスプレイデザインを担当します。まだ商品は少ない時代でしたが、現場の職人たちにもまれながら持ち前のセンスと技術を磨きました。
23歳で伊勢丹を退社した後、堀内さんは雑誌のアートディレクションの仕事を本格的にはじめます。創刊号から携わった写真PR誌「ロッコール」は、大胆なレイアウトで注目を浴びましたが、その編集部で、当時大学生だった内田路子さんと出会います。後に結婚する二人の共通の関心事のひとつが、絵本でした。福音館書店で仕事をしていたことがあった内田さんは、ちょうど創刊したばかりの「こどものとも」の編集長、松居直に堀内さんを紹介します。松居は堀内さんのセンスの良さに感じ入り、堀内さんの絵を一枚も見ないうちに絵本を描いてみないかと頼んだそうです。
そして、生まれた絵本が『くろうまブランキー』です。働かされすぎて倒れてしまった馬のブランキーが、クリスマスの夜、サンタクロースに助けられるというフランスの子どもたちが作った悲しくも幸せな物語を、美しい油絵で見事に描き出しました。
堀内誠一さんの言葉を紹介します。この絵本には、「比類のないストーリーの強さがあります。夜、星をみつめて涙を流すシーンもさることながら、一匹の馬がこの世に生を受けて、広い野原に無心に眠っている第一シーンこそ、この王国への扉でしょう。」
堀内さんは、絵本作家志望の方には、このストーリーをもとに絵を描いてみることをおすすめしています。「絵本を描いてみたくても、やたらに苦労して七転八倒していたのが、この話を渡されて開眼した本人がすすめるのですからまちがいありません。」
そして、堀内さん32歳のときに『ぐるんぱのようちえん』が誕生します。「こどものとも」の編集部から象を主人公にした絵本をという注文があり、堀内さんは西内ミナミさんにお話を頼みました。当時、西内さんは堀内さんらが設立したデザイン会社のコピーライターでお母さんになったばかりでした。色々な職業を渡り歩くのが夢だったという堀内さんは、とても楽しんで描いたと語っています。ぐるんぱの修業先はすべて取材し、特に靴屋は東京・神田の注文靴の職人を取材し、そのとおりに描かれているそうです。
創刊から関わった雑誌「anan」の仕事に一区切りをつけた41歳のとき、心機一転、変貌しつつあるパリを見ておきたいと家族で移住します。そして、二人のお嬢さんの学校が休みになるたびに、ヨーロッパの各地を巡りました。
堀内さんは、旅先のものを見聞きし、食べて飲んで、土地の光や空気を感じ取り、絵本や挿絵に描きこみました。たとえば『こすずめのぼうけん』、『秘密の花園』にはイギリスの風景が見事に描かれています。
また、旅先からは、石井桃子さんや師匠と慕った瀬田貞二さんら、多くの友人、仕事仲間に絵手紙をたびたび送りました。堀内さんは、自分が見たことを伝えたいという気持ちが人一倍強い人だったのでしょう。そして、その心意気で、子どもたちに物語の世界を絵で誠実に伝えるという仕事を果たしてくれました。
堀内誠一さんの絵本は、1冊ごとに絵のスタイルが驚くほど異なります。松居直は、堀内さんの物語を読み取るたぐいまれな力が、これらの多彩な表現を生んだと言います。そしてその表現は、絵本のはじめから終わりまで、お話の世界に漂う空気感、主人公たちの発するリズムまでをも描いています。
「子どもはお話が知りたくて絵本を見たがります。その目的にそった絵であってほしいのはもちろんですが、その点では役に立たない絵で子どもがお話を聞くのをあきらめてしまった絵にしてもなお、子どもは絵が現実と別のものと百も承知で絵という造形の世界を同時に面白がるでしょう。」
戦中戦後の実生活では短かった“子ども時代”を、内なる精神として持ち続け、子どもの感性に対して謙虚に表現の世界を追究しつづけた絵本作家でした。
堀内誠一さんの作品はこちらからご覧になれます。また、堀内誠一さんについては、『絵本作家のアトリエ 2』(福音館書店)『堀内誠一 旅と絵本とデザインと』(平凡社)『ぼくの絵本美術館』『父の時代・私の時代―わがエディトリアルデザイン史』(以上マガジンハウス)で詳しく読むことができます。
2018.12.20