今月の新刊エッセイ|小西英子さん『めん たべよう!』
今月ご紹介するのは、小西英子さんの新刊絵本『めん たべよう!』。美味しそうな麺料理が次々と登場し、みているだけでお腹がペコペコになってくる、迫力満点のたべもの絵本です。エッセイでは、作者の小西さんに、絵本の制作背景から作品のみどころまで、たっぷりと語っていただきました。
日本の豊かな麺文化
小西英子
「次はどんな食べ物の絵本を作るんですか?」と聞かれることがよくあります。そんな時は、逆に「どんな食べ物の絵本が欲しいですか?」とリクエストをお聞きすることにしています。そんな中で、リクエストがとても多かったのが麺類の絵本でした。
そういえば、日本にはうどん、蕎麦、パスタ、ラーメン……最近はフォーなどアジア麺も加わって、本当に豊かな麺文化があります。私も麺類は大好きで、麺を食べない週はありません。
子どもたちも麺類が大好きです。保育士さんやお母さん達に聞いてみると、まだ離乳食の頃から、短く切ったうどんやスパゲッティを夢中で食べるとのこと。ある保育園では近所のラーメン屋さんが保育園にラーメンを作りに来てくれる日があって、子どもたちはすごくその日を楽しみにしているのだそうです。子どもも大人も大好きな、美味しい麺がいっぱい登場する絵本があったら楽しいだろうな、そう思ってこの絵本を作ることにしました。
絵本では、まず、麺を食べさせてくれるお店が登場します。家で食べるのもいいけれど、お店に食べに行くのは、また特別な楽しさがありますよね。うどん屋さん、スパゲッティのレストラン、お蕎麦屋さん、ラーメン屋さん……。どのお店にもそれぞれの趣があって、思わず入りたくなってしまいます。さあ、今日はどのお店に行こう? ちょっとうきうきするお出かけ気分を盛り込みました。
お店に入ったら、何を食べるか注文します。私はファミリーレストランのメニューが大好きです。あのメニューの大きな写真を見ながら、あれもこれも美味しそう、と迷うのはとっても楽しい。ですから、絵本を見る人にも、どれも美味しそう!どれを選ぼう?と、絵を見ながら大いに迷ってほしいと思いました。
絵本の中には二十六種類の麺が登場します。月見うどん、天ぷらそば、ナポリタン、とんこつラーメン……。どの麺も、自分がいちばんおいしいよ!と誘っています。しかもファミリーレストランと違って、絵本の中ではいくつ選んでも、いくつ食べてもいいのです! なんて嬉しい贅沢でしょう。いろんな麺のいろんな味をたっぷり目で味わっていただきたいと思います。
器の素材や美しさにもこだわりました。きつねうどんの丼にはきつねの絵、冷やしうどんには手吹きガラス、元気なスパゲッティにはテラコッタ色の大皿、それぞれにぴったりのお皿を探し歩いたり、デザインを考えたりするのはなかなか楽しかったです。
絵本では、地方による麺文化の違いも出したいと思いました。関西人の私としては、うどんは関西風の薄いお出汁がイチ押し、対して蕎麦はやっぱり関東風がいいと思います。それぞれの麺に合う雰囲気が欲しくて、うどんを描く時は上方落語を、蕎麦を描く時はお江戸の落語のCDを聴きながら描きました。それぞれの落語の世界がお出汁の味にもしみ出ていると思います。
たくさんの麺を描く中ではいろいろ苦労もありました。描くのがいちばん難しかったのは肉うどん。お出汁がしみた脂っこい牛肉の感じをなんとかうまく表現したくて、試行錯誤を重ね、水彩絵具と色鉛筆とオイルパステルとアクリル絵具を総動員して、5日がかりで描き上げました。とっても楽しく描けたのは天ぷらそば。ごま油でカラッと揚がった大きな海老天は本当に美しくて、描きながら惚れ惚れしました。
麵いっぱいのこの絵本。子どもたちといっしょにたっぷり楽しんで、いろんな麺の話題で盛り上がっていただけたら嬉しいです。
小西英子(こにし・えいこ)
1958年京都市生まれ。京都市立芸術大学卒業、同大学院(日本画)修了。絵本に『うりひめとあまんじゃく』『みやこのいちにち』『まるくて おいしいよ』『サンドイッチ サンドイッチ』『おべんとう』『のりまき』『スプーンちゃん』『パパゲーノとパパゲーナ』(福音館書店)、『うばのかわ』(岩波書店)など。挿絵に『小公子』『小公女』(岩波書店)がある。
2018.09.05