日々の絵本と読みもの

80歳を過ぎても、元気に走っています!『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』

80歳を過ぎても、元気に走っています!

『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』

「ちゅうちゅう」は、小さくてきれいな、真っ黒の機関車。毎日、客車や貨車を引いて、町の間をいったりきたりしています。ある日、「ちゅうちゅう」は考えます。「客車や貨車を引かなければ、私はもっと速く走れるのに」って。そして、ひとりで勝手に暴走をはじめます。町中を大混乱におとしいれながら走り抜け、途中で炭水車も外れてしまいます。しまいには、たったひとりで森の古い線路をさまようことに。はたして、「ちゅうちゅう」の運命は……。

「ちゅうちゅう」のおてんばぶりにハラハラ、ドキドキ、そして最後はほっと安心して幸せな気持ちになる絵本です。黒一色で描かれているけれど、線があたたかくてまったく暗さを感じないし、登場する乗りもののスピード感や躍動感ときたら! これはぜひ、実際に絵本を見て体感していただきたいです。見返しには、「ちゅうちゅう」の走る町の様子がカラーで描かれていて、これがまた、じつに楽しい! 子ども時代に、飽きずにずっとその絵を眺めていたことを思い出します。

『ちゅうちゅう』にはこんな思い出もあります。私が小学生になった頃、母が何を血迷ったのか、我が家の『ちゅうちゅう』を断りもなく近所の子にあげてしまったことがありました。それを聞いた私が、ひたすら泣き続けて母に抗議をしたのは言うまでもありません。結局、一度はあげた『ちゅうちゅう』を、頭を下げて返却してもらいました。再び手にしたその『ちゅうちゅう』は、半世紀近い月日を経た今も、私の書棚にあります……絵本を楽しんだ記憶は、大人になっても色あせることがない幸せの記憶。好きな絵本はずっと手元においておきたいものですね。


作者のバージニア・リー・バートンさんは、自身の二人の子どもたちに向けて絵本を作り始め、初めての絵本『ちゅうちゅう』が出版されたのは、1937年。なんと今から81年も前のことです。その後、『ちいさいおうち』(岩波書店)をはじめとする、数々の名作を手がけたバートンさん。絵本を作るときは、描いた絵を子どもたちに見せて物語を語り、子どもたちの反応を確かめながら作っていったそうな。子どもとしっかり向き合いながら作ったからこそ、80年を過ぎても色あせない絵本作品が生まれたのかもしれません。
現在、東京・銀座教文館では、「ちいさいおうちの ばーじにあ・りー・ばーとん」展を開催中。5月7日(月)までです。ゴールデンウィークにぜひお出かけください。



「日々の絵本」水曜担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。

※写真は、東京都立小金井公園の蒸気機関車C57とともに。

2018.05.01

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