「ぺんぎんたいそう はじめるよ。いきをすって~、はいて~。くびをのばして~、ちぢめて~。うでを ふって~、ぱたぱた ぱたぱた。おなかと あたまを ぴったんこ」。
水族館や動物園でおなじみのペンギン。そのユニークな動きや、伸び縮みをして姿かたちが変わる様子は、まるで体操をしているかのように見えます。作者の齋藤槙さんは、 その面白さに学生時代から注目し、私家版の絵本を制作していました。その私家版の絵本をもとに描かれたのが、『ぺんぎんたいそう』です。
登場するペンギンは、大きさのちがう2匹のペンギン。(左側の小さい方がケープペンギン。右側の大きい方がキングペンギンです。)読みながら思わず身体が動いてしまう絵本です。
『ぺんぎんたいそう』は私にとって、特別に思い入れのある絵本です。
実はこの絵本のもとになった作品は、大学在学中にうまれました。当時、私は美術大学で日本画を学んでいました。三年生のときに、「動物園で好きな動物をスケッチして、一枚の日本画を制作しなさい。」という課題が出ました。
私は幼いころ、祖母と上野動物園に行くのが大好きだったので、久々の動物園を嬉々としてまわりました。そんな中、なぜだか心惹かれたのはペンギンです。ぽかぽかと春の陽に背中をむけて、心地良さそうにうとうとしています。銅像のようにちっとも動かないので、私もじっと動かず見つめつづけました。まるで時が止まってしまったかのような、静かで心地いい時間でした。ペンギンは陸上では動きが少ないぶん、かえって小さな動きが際立ちます。その数少ない動きを見逃さないよう、写真を撮ったりスケッチをしました。撮りためた写真をパラパラと眺めているとき、「この動きを絵本としてまとめてみたらどうだろう。」とひらめいたのでした。これが『ぺんぎんたいそう』のはじまりです。
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大学の芸術祭で、現在の絵本のもとになった『ペンギンたいそう』を展示しました。日本画の学生らしく、和紙に墨一色で写実的に描きました。大人っぽいモノトーンの絵本です。
そして数年前、個展をひらいたときに、この『ペンギンたいそう』を「こどものとも0.1.2.」の編集者さんに「赤ちゃん絵本になりませんか?」とご相談しました。こうして赤ちゃん絵本としての『ぺんぎんたいそう』の制作がスタートしました。
あらたな『ぺんぎんたいそう』をつくるにあたって、この絵本の方向性を決めました。キーワードは「おどれる絵本」です。絵本を読んだあと、音楽にあわせておどれるように、母に作曲を頼みました。くわえて、楽譜が読めない方にも楽しんでいただけるように動画も用意することに決めました。(ハードカバーの出版にあわせて、動画もリニューアルしました!)
絵本を作るなか、一番慎重に検討したのは背景の色を何色にするか、ということでした。黄色、ミントグリーン、淡いオレンジ色、ピンク色と4色の見本を描き、近所の赤ちゃんやお母さんたちに見てもらいました。赤ちゃんの反応が良く、元気なイメージにぴったり合った黄色に決めました。体操の内容については、大きな骨組みはできていたので、実際に体を動かしながら、子どもたちがまねをしやすい動きをえらびました。たくさんの小さな検討を重ねて、『ぺんぎんたいそう』は完成しました。
そしていま、保育園や幼稚園のお遊戯会や運動会で体操してくれたり、毎日の日課に体操してくれているご家庭もあると聞きます。お子さんのかわいい体操すがたを喜んでくれるお母さんたちも多いようです。かわいい子どもペンギンがあちらこちらで元気いっぱい体操してくれたらいいなあと夢見ています。
1981年、東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部日本画科卒業。動物や植物など、さまざまな生きものをユーモラスに描く。近年は、土や草木などの自然の色を使った絵画も制作。趣味は動物園通いと、沖縄の伝統的な染め物「紅型(びんがた)」の制作。絵本に『ながーい はなで なにするの?』(「ちいさなかがくのとも」2009年11月号・現在品切)『さくよ さくよ』(「同」2016年8月号)がある。